チップその① 米国

『チップ制度は米国だけのもの』
「チップは基本的に米国に限ったシステムです」と自信を持って言われたら、おそらく下記のような反論をされる方が多いかと思います。
・フランスなどが舞台の映画でタクシー運転手にチップを払うシーンを見たことがある。
・イタリアパックツアーの際に『ベッド一つにつき1000リラ程度のチップを毎朝置いて下さい』と書かれた旅のしおりを渡されたことがある。
確かに欧州などでもチップという慣習が全くない訳ではありません
しかし日本人旅行者が最初に覚えるべきは、やはり米国のチップです。
何故なら、米国のチップは欧州のそれや日本の心付けのような軽々しいものとは原理を全く異にする複雑で難しいものだからです。
では米国のチップとは何でしょうか?

①『米国のチップは給与の一部』
米国のチップは接客を伴うサービス業従事者の給与の一部です。

「接客を伴うサービス業従事者」ってどのような職業かと言うと、分かり易い例を挙げれば「レストランのサーバー(フロア担当)」「タクシー運転手」「ホテルのベルボーイ」などが含まれます。
これらの職業は、きめ細かい気配りをするなど自身の努力次第でより高い満足感を与えてお客様に喜んで頂くことが可能です。
米国のチップ制度は、このような接客サービス業従事者を対象に作られたシステムと考えることが出来ます。

②『米国の最低賃金法』
米国では最低賃金法によって労働者の最低給与を保証しています。
説明をシンプルにするために各州法でなく連邦法のみを示しますが連邦法では最低時給は$7.25と定められており、18才以上の者を雇う場合は雇用主は$7.25以上の時給を払う義務があります。
但し前項で示したチップ収入が得られるサービス業従事者については「チップ収入を足した収入が時給$7.25を満たせば適法」となります。
即ち米国では「サービス業従事者の生活を支える収入の大半をお客様のチップから賄う前提の給与設定が法で許容されている」という点が他の国々と比べて大変特殊な点です。

③『お客様がチップを置かずに帰られたら』
レストラン従業員にオーナ側から支払われる給与金額は、お店毎の
来客数や消費客単価、サーバ1人当たりの担当テーブル数、更に地域のチップ相場など多くの要素から決められ、一律計算ではありません。 
お店や会社それぞれ独自の計算方法でそれぞれの職種の給与を決めてます。

ですが、おそらくどの店でも共通するであろうこととして、従業員への点として、そのお店の標準的なチップ収入を足せば最低賃金法をクリアしてギリギリ適法となる程度の給与支給額に低く抑えられているケースが少なくないと思われます。
ですから、自分が担当するテーブルで1組でもチップが貰えなけれ店外に追いかけてでも回収しようとする理由も頷けますね。

④『相場とチップの増減』
前述の如く米国のチップは給与の一部であるため、そのレートの相場は生活物価に伴って変動します。
以前は庶民的なレストランの食事に対するチップは飲食費の10~15%程度と言われてましたが、最近は15~20%と言われます。
雇用側は当然この相場を基準に従業員の給与を決めるため、従業員は日々の仕事の中でこのレートを確保することが自分の生活の質を維持・向上させる上で重要になります。
片や「チップは受けたサービスの質に応じて増減するもの」という不文律があり、従業員は加点評価を得るためにこれを利用し、客は少しでも支払いを減らするための減点評価に用いる傾向があります

⑤『減点主義の日本人』
若干決めつけ気味ですが、日本人は日本のサービスレベルを基準に
お店の味や雰囲気やサービスなど全てを厳しく総合評価し、少しで日本に劣る点があれば即減点してチップを渋る方が見える気がします。
そもそも店も従業員も米国基準で食事やサービスを提供している訳素晴らしくなくとも標準的な働きをしたつもりの店や従業員は、日本人基準で減点評価され10%などの屈辱的なチップを渡された時に、自分の何が悪かったのかが理解出来ていないことが少なからずあります。
チップの金額を明らかに相場より下げる場合は、そのまま店を出ることはせずにテーブル担当を呼んでどういう理由でチップを減額したか相手に分かるように説明してから堂々と店を出ましょう。 
満足できなかった時こそお店側とのコミュニケーションが大事です。

⑥『加点主義の米国人』
米国人は相場より多めのチップを渡したり、日本人がお客様だったら気分を害してチップを渋り兼ねないようなサービスに対しても、文句を言わずに相場並みのチップを渡す傾向があります。
この大きな理由は、自分の家族(親族)や友人にレストランなどサービス業で働く人がいて、チップに依存する生活の苦労を知っているからなどの理由が考えられます。
日本と違って、アメリカでは高校生になるとすぐ自分で働いてお小遣いを稼ぐようになりますが、自分の子供が働くレストランで外国人のお客様にチップを渋られて哀しい目に遭ったと聞けば、おそらくその親はチップを渋る外国人(非アメリカ人)を憎むでしょう。
そして、お客として入ったお店に若い人が働いていれば、自分の子供と思ってできるだけ加点評価でチップを渡すでしょう。

⑦『ホテルのピローチップ』
そもそもホテルの清掃係の仕事がチップ収入を前提とする接客サービス業
該当するかは微妙なところです。
清掃係の仕事はお客様に直接働きかける場がなく、自分独自の努力で直接お客様に個性のある独自のサービスを提供できるような融通性もありません
更に、ピローチップの金額は$1程度と少額で、1人で数部屋を担当してもチップの合計が$10にも満たない可能性もあって、給与に加えて最低給与を保証するには収入として不安定過ぎます。
出張などの際にピローチップなど置いたことはないと言い切るアメリカ人も少なくありません。
このため、ホテルの清掃係の給与はレストランのサーバーなどのようにチップ収入を入れ込んだ給与計算にはなっていない場合が多いかもしれません。
但し、日本人旅行者が多く訪れる観光地では、日本からの逆輸入的にピローチップが根付いてしまい、これを前提とした給与設定がされていることも考えられますので、旅行ガイドに沿ったチップを置くことをお薦めします。

⑧『ホテルコンシェルジェのサービスに対しては』
ホテルでコンシェルジェにレストランやショーの予約をお願いして取って
貰った際にチップをお渡しすべきか悩む人は多いと思います。
コンシェルジェは観光やグルメ、現地移動手段などの多岐に渡るお客様の相談や要望に応えるために勉強を重ね、豊富な知識と経験を身に付けて、その実力が認められて初めてその職に就ける専門的な仕事です。
従って前述の接客サービス業従事者とは異なり、チップ収入を必要としない給与収入を得ていると考えるのが妥当です。
このことから、コンシェルジェに対しては給与の一部としてのチップという考え方ではなく、チップを渡す場合はあくまでもお礼として渡しましょう。
但し$5に満たない金額や中途半端な金額は細かいレート計算を連想させて相手の気分を害することもありますので、キリの良い金額が適切です。

⑨『オプショナルツアードライバーの場合』
現地オプショナルツアーに参加し、ツアーが終わってホテルまで送って貰った別れ際にアメリカ人はガイド兼運転手にチップを渡す方が多いようです。

運転は専門的な仕事ではないので、添乗員を兼ねてツアーバンを運転するのは下請けや副業が多く、チップが収入の重要要素になっているからです。
日本人はツアー会社に$200などの十分なツアー料金を前払い済みなのでそれで運転手の賃金も全て賄えてるはずと考えたい傾向がありますが、日本人向けツアー会社を運営されている業者に聞くと、運転手は下請けが多くそこまで元請けから十分な報酬が行き渡らないので是非チップを渡して上げてくださいと言われます。
レストランやタクシーと違って相場レートなどはありませんので金額設定が寧ろ難しいですが、周囲の様子を見てキリの良い謝礼的金額を渡しましょう。

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